松村由利子による・・・
2008-08-02


著者は昨年、十三年ぶりに五冊目となる歌集『巌のちから』を出版した。
 その真っすぐで力強い詠いぶりに、過去の歌集を再読したくなったファンも多いに違いない。第一歌集『紫木蓮まで・風舌』から第四歌集『宇宙舞踏』までをまとめた本書は、新旧のファンを魅了する一冊となっている。


   いにしえの王(おおきみ)のごと前髪を吹かれてあゆむ紫木蓮まで
 
   産むならば世界を産めよものの芽の湧き立つ森のさみどりのなか


 のびやかな調べは、既成の価値観にとらわれない精神性からくるものだろうか。「フェミニズム短歌」と少しばかり揶揄のこもった言い方をされたこともあるが、作者の持ち味であるたっぷりした詠いぶり、大どかさは、時代を超えて心を揺さぶる。
 女性性をテーマにした印象が強かった人には、思いがけない歌も多いだろう。


   意地悪き顔の百姓男くるひらたくかわく道のおもてを


の骨太さには、斎藤茂吉に通じるものがある。


   浴室のタイルの壁を軟体のなめくじひとつのぼりてゆけり


には、吉原幸子を思い出させられる。


   地下壁の広告見れば蛍光に透く青き波。−−青は慰め

   足裏に月をおさへて立ち上がる宙(そら)のをんなのそのゆびぢから


 長く定型に向かい続けた著者の歌は、今も進化し続けている。その文体や技巧の着実な足跡をたどる意味でも、記念すべき愛蔵版だと言えそうだ。



                        (『短歌新聞』2008.5.10「のびやかさと着実さ」)
[被紹介]

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